、伝統のふかい欧州上流人の生活様式に不案内の弱点を、かえって、おもしろさに転化させて生きて来たのだと思われた。
 金のことなんかわからないふりして――。そういう言葉は金のために砂場嘉訓がどんな苦しい経験をしたかということを、逆に伸子に考えさせた。画商からまるではたかれた金をあてがわれたとき、肖像画の依頼者から画料について、みみっちいほのめかしをされる都度、日本の画家砂場嘉訓は、イギリスのむずかしい金のことはわからないというふりを逆用して画料もじりじりとあげて来たにちがいない。
 郊外の家へ帰って来て、素子に、砂場嘉訓に貰った不思議な餞別の話をしているうちに、伸子は鼻の髄が酸っぱいようになって来た。
「よくて、わたしたちはね、あっちへ行って決して活躍[#「活躍」に傍点]しないのよ。いい? あっちで有名人になろうとするなんて、こわいことだわ」
 伸子は、何かから自分たちの生活を防衛するような眼つきをした。
「ただどっさり観て来るの、感じてくるの、ね? それでいいでしょう?」
 同時に素子としてはどうしてもロシア語をしっかりものにしてかえって来なければならない。伸子は、素子の沈黙のなかに、そ
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