けれど、本当に一生懸命にやりますから」
 ウメ子は、美しい上まぶたをつり上げるようにして真実こめていった。
「本が出たら、すぐお送りします。わたしのロシア語なんてあやしいんですけれど、宛名ぐらいかけるでしょうから、思いがけない役に立つわけです」
 諧謔《かいぎゃく》的にそういって、ウメ子は小さい金歯をみせながら、ちょっと舌を出すように笑った。
 引越しのトラックが来る日がきまったとき、伸子は重い気もちで動坂へ行った。駒沢の家かたづけの第一日は動坂へ荷物を送り、第二日は日本橋の素子の従弟の倉庫へ。そう順序だてられた。多計代は、きっといつもの調子で、そのビール箱の中のいくつが、素子の本かときいたりするのだろう。そう思って伸子は気のはずみの失われた顔でその話をきりだした。
「そのビール箱っていうのはいくつぐらいあるの?」
 何となく、多計代のうけ答えは軽快であった。
「全部で、十ばかりなの」
 土蔵の空きまを一寸考えてみる風だったが、
「そのくらいなら大丈夫だよ、もっといで」
 多計代は淡白に承知した。
「災難はいつおこるかわからないから、第一土蔵が落ちるような火事でもあったらそのときのこと
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