くても、そんなにおっしゃる?」
 伸子は、
「そんなにむずかしいものなら、着ない」
 そう云って、本当にそれが仕立てあがった冬は着なかった。
 藤堂駿平と佐々泰造とは、公式なつき合いばかりでない交際があるらしいことも、伸子は思い出したのであった。
「わたし、ちょっときいて来てみる」
 伸子は、郊外電車の停留場のわきにある酒屋から、佐々の事務所に電話した。
 勢いこんでかえって来て、伸子はすぐに縁側にまわった。
「よかった! 何とか考えましょうって――今来るようにって……」
 多計代は東北の田舎からまだ帰っていず、父ひとりの動坂の家を思うと、伸子は、素子を誘ってゆくにいい折だと思った。
「一緒に行かない?」
 旅券のことについて父にたのむのは、伸子の分ばかりでなかった。素子も行って会えば、たのまれる父の気持もよかろう。伸子は、そう思ったのであった。
「さあ……」
 素子としても、同じように考えるらしく、行ってもわるくなさそうにしていたが、
「まあ、やめとこう」
 皮肉な苦笑を浮べた。
「お母さんの留守には来るんだね、なんていわれちゃ、ちょいと癪だからね」
 伸子たちが老松町の家に住んでい
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