「お父さんに出して貰ったらいいじゃないですか――そのくらい」
「そうするしかなければむしろ行かないわ」
双方とも言葉がとぎれた。やがて木下が、自分の仕事として思い出したらしく、
「あなたが、この間うち連載していた小説、あれはもうじきうちから単行本になるんでしょう?」
と伸子にきいた。
「再校が終ったから、じきでしょう」
またしばらく沈黙がつづいた。よっぽどたって、
「じゃあ一つ、こういうことにしましょうか」
木下が、椅子の上で膝をくみかえた。
「いまうちでやっている全集ね。あれへ一冊、あなたと、楢崎佐保子さん、村田壽子さんと、三人で一冊こしらえようじゃないですか」
「ほんと?」
伸子は、われ知らずよろこびで上気した。
「そういう風に出来たら、ほんとにいいけれど……」
その社で、大規模な明治以来の日本文学全集刊行の事業をはじめていた。尾崎紅葉から現代の新進作家の作品まで網羅されて、一人で一冊の割当てをもつ作家もあり三四人で一冊という割当てのもあった。新聞に大広告が出され、流行の一円本出版の先頭をきっている仕事であった。伸子は、全然自分にかかわりないこととしてそれをながめて来た。
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