棗形の小麦色の顔を薄く染めた。そして、黙ったままつやのこもった視線で伸子を見た。そのつややかな眼は、伸子に同じ素子がこのあいだ自分を見た別の目を思いおこさせた。わたしは君にくわれるのはごめんだよ。そう云って伸子を見つめたときの素子の目つきを。それは暗く、一定のところからよせつけまいとするような色であった。伸子は、いま素子の眼をみたしている明るさと、あの暗さとの間にたたみこまれている微妙なこころのひだを感じた。伸子は笑いのかげにある口もとですこし意地わるくきいた。
「あなたは、どうきまりそうだと思っていた? どうきまったら一番いいと思っていた?」
 素子は黙ったまま新しいタバコに火をつけ、それをすった。
「結局、こうなるのが一番自然なきまりかたなんだろう……よかったさ」
「…………」
 伸子は、太平洋航路の大きな客船が、横浜の埠頭から次第次第に沖へむかってはなれて行ったときの光景を思いおこした。銅鑼《どら》が鳴り、渡りはしごがひき上げられ、音楽やテープの色どりのうちに、そろそろと巨大な客船は岸壁をはなれる。最初に、気もつかないほど細い藁や果物の皮などのういたきたない水の幅が岸壁と舷側との
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