く力ではなく、ほんとにわからない! としぼりがちぢまり凝集することで、そこからなにかひとつふみ出す力が湧きそうな、痛みと歓喜との入り交った予感が伸子の心をうずかせているのであった。
 伸子は、わかりにくいことをわかって貰おうとして、困り困り素子に自分のその心持を説明した。
「だからね、わたしは、これをすっかりみのらしてみたいの。わかる? 中絶したくないの。音楽のように、しまいまできいてみたいの」
「――まあ、それもいいだろうさ、わたしの方だって、なにもきょうあすにきまるわけじゃなし……」
 素子は、そういう伸子の心にはあまりさわらないようにし、さわらないことではやく、伸子がいわゆるみのった状態におかれることを期待している風で、自分の旅行のための用事で外出しつづけた。巣についた牝鶏のように、伸子は家にこもりつづけた。
 そういうある日の午後、縁側で竹の葉の色が青く映っている金魚の鉢を眺めていた伸子は、うしろで、
「こんにちは」
と、よびかけた男の声におどろいた。ふりかえるなり、伸子は、愛嬌のない眼をそちらにむけた。少女むきの文芸雑誌の記者で沼辺耕三という記者が、原稿をたのみに、といって先
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