で謡った一曲は、小規模であるが精煉されていることとその気迫で震撼的な感銘を与えた。日本の封建文化の磨き上げから生じた艶、量感が感じられた。

 伸子は、だまって楢崎夫妻やその師匠、相川などの間に交わされる話をきいていた。それは全く大人の話しぶりであった。伸子は自分をまるで羽根の生え揃わない不器用なひよっ子のように感じながら、坐っていた。しばらくしてから、佐保子が、画帖と硯をもって来た。師匠が、肉太な書体で自分の名だけを書いた。新しい頁をひらいて、画帖は伸子の前にまわされた。伸子は、当惑した。画帖に書いたことがなかった。そういうものに書くということが、なんだか年にも柄にもふさわしくなく思えた。伸子は、困った様子で、かたわらの佐保子に、
「わたしはかんべんして――字なんか下手なんですもの」
といった。すると、佐保子は、
「そんなことわかっていますよ、誰もあなたの字が上手だとは思ってはいないのだから、さっさとおかきなさいよ」
といった。
「なんて書くの?」
 伸子は、こういうものに、なにをなんとかいていいのか見当がつかなかった。
「わからないわ」
 いくらかもどかしそうに、佐保子はその卓の上
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