事がすんでから、そのひとが、帽子に手をかけて、
「じゃあ、またいずれ。また北海道へゆくときでも通りがかったら、しらして下さい。おかげで愉快だった」
といってわかれて行ってから、はっきりと理解したのであった。
伸子は、素子からそういう話をきいた。
「北海道って――どうして? そのとき行ったの?」
「まさか仙台へだけ来たなんていえやしないじゃないか」
素子は、真面目にいった。
「それからどうしたの、いま、そのひとどこにいるのかしら……」
「九州の方に赴任したらしい、ハガキが来たっけ」
「――九州へは行ってみない?」
赤いパイプをかんでいたが、素子は、
「もう結婚しちまっているさ」
全然、自分に関係のなくなった状態として、そういった。
その伊豆の夏休みの集団生活のとき、上級生で一緒にいた小川豊助が、こんど素子の仕事が一段落ついた慰労に招いてくれた。
「ぶこちゃん、いつがいい?」
「さあ、わたし、あんまりよくしらないし……」
小川豊助が「オブローモフ」を訳していて、それは伸子もよんでいた。素子は、小川豊助が湯島天神の境内の小料理やの女といきさつをおこしたとき、豊助にかわって、話をつ
前へ
次へ
全402ページ中229ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング