るといって、中絶してしまった。現実には、やっと絹に牡丹の写生が一枚描けるようになったばかりのところで。――多計代は自分や自分の生んだ子どもは一人のこらず、なにか特別な力をひそめて生れついているように思っているようだった。それをのばす方法は誰よりも自分が直観している、と思いこんでいるようだった。けれども実際には伸子にしろそういう母の判断から生じるすべての細目に力いっぱい抵抗することで、やっと現実に自分らしい生きる道も辿りつづけているのであった。
 松浦はいくつものリードをうたった。それをしばらく聴いていてから伸子はのどがかわいて茶をいれに食堂へ行った。誰もいないその室の通路に面して北側の腰高窓がみんなあいていた。それは不用心だった。そればかりでなく、掃除しっぱなしでレース・カーテンが一方へ引きよせたままになっている。いかにも、男の子だけが留守をしている家のぞんざいさであった。内側が赤塗りの大きい鮨桶がその中に笹の葉だけをのこして、皿や茶碗と一緒にまだかたづけられず真中の大テーブルの上にひろがっていた。そのテーブルのはしに送り状を紐にまきつけた三越からの届け品の細長い箱が二つ、ひょいと抛《
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