伸子の知らないものではなかった。二十三歳の美術学校生徒である弟の和一郎のあるときの表情に共通な、はにかみの裏がえされた傲慢がある。伸子は、自分の側からも好奇心をうごかされながら、
「どういう御用なのかしら」
ときいた。
「――紙をわたしたんだが……」
「紙は見たけれど――あなたたちにお会いするの、はじめてでしょう」
「…………」
「あなたがた、アナーキスト?」
ステッキをついている黒ルバーシカの青年が、
「そうだ」
と短く力を入れて答えた。
「そういう人たちで、うちへ来た方はあなたがたがはじめてです……」
伸子は、どこかで読んだいいかたを思い出し、
「りゃく[#「りゃく」に傍点]ということに来たの?」
ときいた。金を寄附させることを、アナーキスト仲間では掠奪という意味からか、リャクというということを思いおこしたのだった。
よごれていることを自分たちの青春の示威と飾りにしているような三人の青年たちは、何となし、伸子のその言葉で動揺した。
「用は、わかっているじゃないですか」
ステッキをついた一人が、挑戦的に顎をもたげた。
「それゃ、読んでるもの……」
伸子は、
「でも、わたしに
前へ
次へ
全402ページ中178ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング