た。
「わたしが、御秘蔵娘だったら、あなたなんか一日だってつきあっていられないくせに……」
「それゃそうだ」
前崎の家が、もしこんど多計代にとって激情からの難破をふせぐための一つの港となるならば、あの家にもいくらかの意味があった。多計代が反対の使い途を考えて、前崎へ行ったとは伸子に想像されなかった。
伸子は親たちと家屋や土地との関係を段々考えて行って一種のおもしろい心持になった。泰造は、小規模に自分の趣味を示す前崎の家を建てたり、実務的に税のないうちにガソリンのいらないヨーロッパ製の小型ビインを買ったりした。けれども、佐々の家には一軒の貸家も、収入となる一ヵ所の地所もなかった。それがあれば、ひとりでに儲かってゆくというような家とか地面とかをためていなかった。そういう点で泰造の生活態度は仕事に自信のある技術家らしい淡白さだった。多計代がむしろそういう点に用心ぶかさと積極性をもっていた。それにしろ十何年も昔、多計代がひどく意気込んで雪の日に見に行って買った北多摩の地面は、四季を通じてそこから富士が素晴らしくよく見えるというのがとりえなばかりで、地価さえろくにあがらず、今だに麦畑のままで
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