た。
「おや、こんどは、あの家でも御迷惑じゃないと見えるね、御方便だこと!」
 そういってからすこしの間考えていたが、多計代は、
「おことわりだね」
と、はっきりいった。
「あすこは、私たちのために建てたところだからね。ベッドだってほかにないんだし」
 そういえば、前崎の家では洗面器にしろ家族は一つところを使うようにだけ作られている。多計代にすれば、そういうこともいやなのであろう。伸子はいそいで、
「いいのよ、いいのよ、決して無理にお願いしているんじゃないんだから……」
と、自分の希望を撤回した。それは、伸子がまだ素子に会わない前のことであった。素子とくらすようになってから、数年たつ間に多計代は一度も前崎の家へ娘たちを招ばなかった。泰造が何かの折に、伸子もたまには素子さんと来てみればいいのに、といったことがあった。すると多計代が、
「ごめんですよ。何をされるかしれたもんじゃない、気味がわるい」
 即座に本気な眼つきでそういった。月日はそのまま過ぎて来ているのであった。
 伸子は、素子とつれ立って桜並木の通りから住居の方へと小道を曲りながら、
「招待されないのがかえっていいのよ」
といっ
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