をはじめたのであった。
この二三年の伸子の生活のうつりかわりは、外からもわかりやすい変化であった。ひとこま、ひとこま、生活の情景ははっきり推移した。その間佐々の家も、思えばずいぶん変ったものだ。しかし、その変化は、大きい屋台の中で、いつとなし、あれやこれやの細目が変って行って、気がついてみれば、全体が元とちがってしまっていることにおどろかれる、そういう変りかたなのであった。
佐々は健康で生活力の旺盛な、働きずきの男らしい恬淡《てんたん》さをもっていた。メディチの紋章のついた椅子も、珍重していながら、大切になでさすって、眺めるような味わいかたはしていなかった。伸子も来あわせてみんながその室でしゃべっているようなとき、泰造はちょっとその十五六世紀頃の椅子にかけてみたりした。
「昔の人間はよくこんな工合のわるい椅子で辛抱していたもんだね。これをみても進歩ということは大切ですよ」
そういいながら、どういう細工によってか、ひじかけの先の円くなっている手前にくるくるとまわるようにはめられている繊細な輪細工を、乾いた軽い音をたててまわして遊んだ。ときによると、
「お父様のハムレットを見せて上げ
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