る場合を考えめぐらしているうちに、混沌としていた伸子の想像のうちにいくらか現実性のある一つの点が照らし出されて来た。多計代は、ちらりと、あのひとも若いもんだから、ともらした。それは暗示の多い一言であった。越智は母に、男が女に求める肉体的な求めを、何かの形で出したのではなかろうか。いつか、越智が、もし現在の細君をもっていなかったら、多計代に求婚しただろうといったことを、多計代は伸子に告げたことがあった。いくらかずつ伸子にもわかりかけて来た。
「ね、お母様、越智さんは、お母様になにか特別なことを求めたの?」
「…………」
多計代は肯定も否定もしなかった。ただ、まぶたいっぱいになってきた涙が、頬にこぼれかかった。若くない、けれども繊細ななめし革のような不思議な艶のある滑らかな頬に涙の粒を光らせながら、指環のはまった手をとられたまま、娘の目のなかをじっと見つめている多計代の顔じゅうに、のっぴきならない苦悩があった。その苦悩は伸子の若い顔にもてりかえした。越智が何かを多計代に求めたことは事実であり、それに対して多計代がすぐには応じられなかった心持があることを、女としての伸子は理解したのであった
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