人の細君で日野さよ子というアメリカ帰りの女が、佐々の家へ出入りしたことがあった。どういうわけだったか良人は日本にのこっていて、細君だけがアメリカへ行き料理の勉強をして帰って来た。小柄な、いくらか蓮葉で愛嬌のいいそのひとが、動坂のうちへも来て料理を教えてくれるということになった。もうその時伸子は佃と結婚していて、赤坂の方に住んでいた。あるとき、来てみると、母がしきりに父をからかって、
「ほんとに、どうなすったのかと思ったよ。お父様ったら、今出たばかりのお風呂に、また飛びこみなさるんだもの」
伸子にそういった。
「そんなことはないっていってるじゃないか」
「いいえ、おかくしになったって駄目ですよ」
日野さよ子が来たと聞いたら、泰造が、そうか、というなり、さっき帰ったときにもう入浴をすました風呂へまたとび込んだ、というのであった。伸子は、半信半疑で、変な話だと思ってきいた。母が、はしゃぐようにしてくりかえしていうほどおかしくもなかった。
伸子はそのときのことを、母の不自然なほど陽気だった笑い声までつれて思い出した。そして、父はいま越智に対して、どなりつけた。――夫婦の生活というもの、男
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