が来なくなったとなると、来なくなったという面から竹村への意識がしばらくの間めざまされた。
伸子が素子と暮して小説をかき出したように、素子は、自分にもいい生活のはじまった記念のためにと、大部な翻訳に着手していた。傷つけられることに対して余り鋭敏な素子の感情が、そういうきっかけから、のびのびと確信をもつように、と伸子はねがった。二人の生活のうちに二人の女がそれぞれの発展を示して、豊富に充実して生きてゆけたら、素子が自分の感情傾向が特殊だという自意識から、わざとその面を固執したり、誇張している、そんないつも抵抗しているような神経のくばりがどこに必要だろう。伸子の感じからあからさまにいえば、それらはケチくささであった。伸子にはそのけちくささを自分たちの生活に含むことをきらう、つよい感覚があった。それは虚栄心というものだろうか。伸子を体裁屋と、いいきれることなのだろうか。――
伸子を折にふれて真剣に考えこませる問題があった。それは自分たちの今の生活が、はたして、本当に新しい意味をもった暮しぶりであるのだろうか、という疑いであった。小説を書くということについても。たしかに伸子はいくらか小説を書
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