鳴きしきり、闇を劈くように、鋭い門燈の輝きが、末拡がりに処々の夜を照して居る。
父上は、まだ帰って居られなかった。いつもの正面の場処から、母が、隔意のある表情で、
「いらっしゃい」
と軽く頭を下げられる。
自分は居難い心持がした。彼女が何を思って居られるのか判らず、周囲の人も亦、知ったような、判らないような、何処となく不自然な雰囲気を以てかこんで居るのである。
「――じゃあ、一寸二階へ来てお貰いしましょう」
やがて、自分等は、二階坐敷へつれられた。
先に立った母が、改って坐布団などを出される。自分は、其那片苦しい待遇に堪えないで、縁側にある長椅子に腰をかけた。
Aは、母と相対して坐らざるを得ない。
「貴方も、勿論、もう百合子からお訊きでしょうし、又斯う云う事になると云う位は、若い者でもないのだから前以て御存知だったでしょうが、一体、あの――何ですね、今度百合子が書いたものを、どうお思いです?」
彼女は、強いて落付き、足場を踏みしめた態度で口を切り始めた。
「どうと云って、私の目から見れば、相当によく出来て居ると思います」
「小説としては、それは、よく書いてありましょう。然し
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