等は、長い間話した。
「解らない。どうしても、私とは一致しない処がある。お前はボルシェビキだよ。確に過激派だ」
 すっかり理解が出来たと云うのではなくても、思って居たこと丈は兎に角云って、少しは心も溶けたと云う風を見、其日は帰った。
 Aは、詰らない、何故そう判らないのか、と云って厭な顔をする。特に、彼にとっては、母が、陰で小細工をした等と思われた事が、ひどく不快なのである。
 その内に、九月も下旬になった。
 或日の午後、オートバイでK男が来て、今晩、是非二人で来いと、伝言を齎した。
 勿論、前の続きであるとは推察される。母はきっと、二人を並べて、もう一度、みっしり自分の考を明にされたいのだろう。物事を、或時、ぼんやりさせて置けない彼女の性格としては無理もない。然し、私は、如何うしたらよいのだろう。幾度、母の愁訴、憤怒にあっても、心の態度は、もう定って居る。一層解って貰えるように、一層、心に入り易いように、先日話した諸点を、又繰返すほかないのである。
 二人は陰気な心持で、夜店の賑やかな肴町の大通りを抜けた。
 H町の通りは、相変らず暗い。ずっと右手に続いた杉林の叢の裡では盛に轡虫が
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