れ自身を、或圏境に於ける、或性格の二十何歳の女は、斯う思った、と、自ら観、書くのだ。本能が観察せずには居ないのですから、と云っても、其は通じない。「我に叛く」の場合では、此点が、一層、複雑にもつれた。母上は、自分が、完く仕様のない母として故意に描かれて居ると思い込み、始めは、Aが、私を教唆して、あれを書かせたと迄、思われたのだ。
自分が如何《ど》う云う内的の動機で書いたか、説明は耳では聞かれる。が、心に些も入らない。
九月の初旬、母は、憤って私を呼びつけられた。
如何程、熱心と誠意とで説明しただろう。
自分は、一大危機に面して居るのを覚えた。どうかして、彼女に理解し、納得して貰わなければならない。芸術家としての一生には、此から、猶此様なことが起らないとは限らない。その度に、斯程の誤解と、混乱があるのでは、どうしたらいいのか。又、彼女の威脅や涙に、創作を掣肘されては堪えられない。今まで、自分は充分、それを受けて来た。やっと、人間として生活し始め、独特な作品も出ようと云う時、又、再び、貧しき人々の群を書いた頃の、従順を期待されては、全く、一箇の芸術家として、立つ瀬がないではないか。
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