を問ねて置いたのである。
 けれども、何にしろ父上は、いそがしい。その一日か二日前にならなければ、はっきりした返事は出来ないと云う有様である。母上も、はっきりしない。私を呼び、切角云って来たのを、断るのも余りひどいからと、お父様もたって仰云るから[#「お父様もたって仰云るから」に傍点]、まあ行こうと思っては居るが、と云う程度である。
 私の心持では、Aが、自分から進んで、其丈の配慮をしたことに、深い慶びを感じて居た。其だのに、彼方では一向、此方ほどの熱意を示して呉れない。半分、いやいや恩にきせたような母上の口吻を、自分は下等に感じた。彼女が自分の口から、来るな、会わない、と迄云い切ったのを、今更取り消し、折れることが、如何に、性格として不可能かは判って居る。其故、彼女を立て、此方から、被来って下さいと云うのに、何故からりと、朗らかに、その譲歩を受けられないのだろう。
 いつまでも、ぐずぐずして定らず、自分も気が抜けたような処へ、丁度、此、青山の家が見付かった。
 前後して、元老の山縣公が、一般の無感興の裡にじりじりと死滅して、十日が、国葬であった。為に、確答がないから、繰り合わせてもよ
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