ないかと云って来させ、もう帰れとは云えない。それが、此、刹那にすっかり位置が変り、相方の希望が一つの形に於て満されると云うことになったのではないだろうか。
後の代りがないことは、少くとも、自分には判り過る程解って居た。が、いざと云う時にはどうか成ろう。
正直に云うと此事より、自分にとっては、深い心懸りが他に一つあった。それは、林町と我々、寧ろAと母との間に不調和があり、去年の九月から、彼は、林町へ来ることを止められて居ると云うことなのである。
老人に、云うべきことではない。彼が来れば勿論、林町へ挨拶に行こうと云われるだろう。Aの行かないのは変だ。
彼の来られる前、何とか今の状態を換えることは出来ないだろうか。
云わずとも、Aは勿論其事を思って居る。
其為にも、又、老人の上京等と云うことを抜きにして考えても、彼と母との間が、あまり長い間、左様な有様で居るのは、不自然すぎる話である。何とか理解し合う機会にもと、Aは、二月の十一日から十三日迄、私の誕生日をよい折に、二人を晩餐に招こうとした。一月の中旬から考を定め、二人の気にさわらないようにフォーマルなインビテーションを書き、都合
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