上の娘は、三輪の郵便局の細君になって居る。二女が二十一二で、浜田病院に産婆の稽古をして居る。うちにもちょくちょく遊びに来る、色白な、下膨れの一寸愛らしい娘であった。先頃、学校を出たまま何処に居るか、行方が不明になったと云って、夜中大騒ぎをしたことがある。それも、病気を苦にして、休みたかったのだったそうだが、今度は、愈々腹膜になって、ひどい苦しみようだと云うのである。
 朝から様子を見に行って居たとり[#「とり」に傍点]が
「奥様、もう駄目でございますのよ!」
と云い乍ら、顔をかえて水口から入って来た時、自分は、ぎょっとした。
 彼女の息子二人は、結核で死んで居る。又、今度も! と云う感じが、忽ち矢のように心を走ったのである。
 生きるか死ぬか、母娘諸共と云うような場合、此方の困ることを云っては居られない。
 父の上京のことも思い合わせたが、自分等は、さっぱり彼女に暇をやった。
 一方には、漠然と、瞬間を利用した形跡がないでもない。Aは、先頃から彼女の、神経を疲らす甲高声と、子供扱いとに、飽きが来て居た。何処か性に合わない処もあるらしい。やめたいとは、前から云って居たことだが、此方から来
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