葉で、寧ろ、無反省な、不快に近い感を受けた。
 明る日、晴れた日曜であった。自分等二人は、陰気な気分を紛らし得ず――Aが、心から歓んで和解を迎えたのではなく、如何にも已を得ず義務と云う感で承知したので――、肴町までの長い電車の間、私は殆ど一言も口を利かなかった。彼は思想に出た「犬」と云う面白い小説を書[#「書」に「ママ」の注記]み、自分は明星の色彩音楽について読んで居る。勿論、些も、楽しい読書ではない。本でも読まなければ、顔を見るのもいやな気分になって居たのである。
 父は、特に願って家に居て戴いた。入って行くと、西洋間へ、と云うのでAを其処に通し、自分は食堂に行く。
 母は、私の不快そうな顔を認め
「何も、お前が御不承知なら、来て貰うには及ばないのだよ」
と云われる。自分は、折角の気分を壊すことをおそれ
「疲れて居るのよ」
と、打ち消した。
「――それ丈ならいいがね。――」
 自分は、注意深い眼を、眉や口に感じた。
「ね、百合ちゃん、斯うしようじゃあないか。此から、何か百合ちゃんの書くもので、私のことが出るのは、一度前以て見せて貰うように。その方がいいと思うよ。何も、斯う云うことがあ
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