でもそうなのだろう。
それを今まで、今夜ほど明らかに感知しなかったと云ってよい。自分の生活では、無心、女らしい可愛い浅はかさ、などと云うものが、決してあるがままでは存在し得ない有様なのだ。
僅か一時間足らずの話の間に、其等、自分にとっては、意義ある多くのことに思い当り、静かな、然し底に淋しさを持った心持で、オートバイで帰って来た。十二時少し過て居ただろう。
Aは床には入り、眼を覚して居る。
自分は、出来る丈平静に、又、八畳の方に眠って居る老人の熟睡をも妨げないようにして、林町で話して来たこと、自分の考え等を述べた。
Aにしろ、もっとよい状態にありたいと云う心は強い。彼はしきりに、今、急にそんなことをしても、真実の理解がなければ、又同じようなことを繰返すのではないかと云うことを危うんで居る。
けれども、遂に、それでは明日、二人で午後から行って、おかあさまにも会い、よく話して見ようと云うことに定った。
彼が内心、どれ丈の深さで、此事を承知したのか、自分にはよく解らず
「その方が百合ちゃんも幸福になり、おかあさまもいいと仰云るなら、そうしましょう、ね、それが一番いい」
と云う言
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