下さればいいから」
「そう出来れば、真個に結構なことだ。どうもそれは順序なのだからね」
 間もなく、スエ子を寝かして居た母が下りて来られた。父から、私の承諾をきき、深い悦びを面に漲らせた。然し、未だ、あの小説を根に持って居られるのは判る。

 父が、全然理解の一致しない点には些も触れず、而もちゃんと、快く、希望する結果に導き入れたには、驚きを覚えた。
 人と人との仲に入る者の話し振りなどと云うものが、如何程、相互の関係を簡単にし、複雑にするか。その実感も、今夜始めて得たようにさえ感じた。今までは、親、弟妹の間にだけ生活し、無邪気に、
「おかあさまがね、斯う仰云ってよ」
と云ったとしても、何等、愛の問題には関係ない状態にあった。一面から云えば、其丈、純粋で、根強い愛が皆を、しっかりと一つ枝に結びつけて居たのだ。
 自分には、そのあけっぱなし、無くなす必要もない筈の子供らしさが失せない。つい、受けた感じをそのままAに話す。若しAが、その話にも煩わされず、又直ぐ忘れ、笑うような天才的なら面倒はないのだ。然しそうではなく、皆、胸にたたみ込み、ある愛を殺いだり、つみあげたりする。
 恐らく母の方
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