。それ程、子の我ままを認容すれば、又、親の子に対する我ままも、少くとも其程度迄、認めなければならないのではないだろうか。
 自分の勝手のよい時ばかり、親だもの、と振舞ったと云われても、自分等に確かな心の弁護が出来るとは思われない。
「自分は、今度は実によい機会だと思う。お父さんの上京されたと云うことで、必要からでも、我々は、もう一歩と云う処まで接近して居る。此処で調和する点を見つけ、ずっと工合よく行くように相方で理解することは、決して無駄なこととは思われない。そうじゃあないか? 今、若し、自分に悪いことはない、此方から折れては出られないとなれば、我々にも又、Aさんに対して持って居る種々な不満や何かで、一生別れ別れに暮さなければならないことになるからだ。」
 考えた後、自分は云った。
「Aに悪いことがないと云うのは、あの小説の動機についてで、引越しや何かの時した我々の手落ちや心持の反省の足りなかったことはよく判ります。それに、おかあさまのそう仰云る心持も、真個に愛があるからこそなのだから。――よくAに話して見ましょう。そして、一度私共で来、すっかりお話をし、それから、更めて、父親を招いて
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