閑《のどか》に出来ないと云われる。
 せっぱ詰った揚句であろう、Aは、突然林町へ電話をかけた。そして、父を呼び、二三日のうちに、行き度い意向を告げた。彼の心持で云えば、一寸客間で話しでもして帰る積りであったのだろう。けれども、林町では、折角来られたものだから、せめて夕餐でも一緒にしたい。それには、自分(父)の腹工合が悪いのをなおしてから。いずれ四五日うちに、と云うことになった。
 始めから、自分は不安を覚えて居る。Aの遣り方は、当を得て居ないと感じる。少くとも、母が、それで、それならと、云われるとは思わない。何かなければよい、と思って居るうちに、翌日、林町から電話郵便が来た。至急、私に来い、と云うのである。
 不快な、来るべきものが来たと云うような心持で、夜、自分は林町へ行った。
 父が、話があるからと云って、西洋間に呼ばれる。
「もう、どう云う用だか分って居るだろう? 何だと思って居る? 云って御覧、」
 穏やかに、然し父親らしい態度で切り出され、自分は三つか四つの子供に戻ったような、間の悪さを感じた。
「あれでしょう、おかあさまが、不満足でいらっしゃるんでしょう?」
「うむ。つまり
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