、余り突然だと云うのだね、妻《さい》の心持で云えば、斯う云うことを云う前に、何とか、前からのことの定りがつくべきであると云うのだ。ずるずるべったりで、いきなり父親を連れて行くから、と命令されるようでは、甚だ心苦しいと云うのだ。
切角、田舎から出て来られたのだし、お前の立場としても同情されるから、うちでは、出来る丈歓待してあげたい。然し、一方、そう云うことがあっては、何だか、まるで嘘偽で、実に辛い義務になって仕舞う。母は、若しそう云うことになれば、東京に居て会わないと云うことには行くまいから、何処へか旅行でも仕なければなるまい、と云うのだが――
お前は、どうしたら一番いいと思うかね?」
父の言葉で、自分は、その時まで心付かなかった、両親の、純粋な心持を、明らかに知らされた。Aの方では、とにかく形式にでも一度連れて来さえすれば好い。どうにかなるだろう、と云う心持で居る。然し、此方では、逢うなら、心から逢いたい、それでなければ一層会わない方がよいとさえ思うが、仲に入る私を思い、それも出来ず感じる。どうしたらよい、と云うのである。
自分は、一応順序として、彼も其には心付いて居、前に二人
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