い乍ら、何とも云われない魂の寂寥を覚えた。
 去年の大晦日は林町で二三時頃まで過し、雪の凍ってつるつるする街路を、Aと小林さんと三人で、頼まれたペパアミントを探し乍ら、肴町を歩いたのを思い出す。彼方では何をして居るだろう。恐らく、あまり陽気ではない心持がする。両親は、スエ子を連れて、二十九日頃から、浜名湖に行くと云って居られた。家には祖母、弟達、働いて居る者きりだろう。自分にとって始めてであると同じ淋しい大晦日が、彼等にも来たと思われる。――
 二日の日、私共は二人で林町へ行き祖母に年始の挨拶をした。
 Aが発議をし、折角の心持にけちをつけるのを思ってやめたのだが、自分には一寸いやな心持がした。仮令父母は居ないでも、彼等の家であることに変りはない。その家へ来るなと云われたのに、留守の間に、祖母の為とは云え、入るのは、何処となく純粋でない。女々しさが感じられたのである。
 斯様な状態のままの処へ、国からAの父の来られたことは、我々にとって、明かに或苦痛である。
 何にも知らない老人は、一日も早く林町へ行き、謂わば、永い間の懸念になって居る公式の訪問をすませたい。それがあるうちは、見物も長
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