暖さのないものを歎くと共に、Aに対しては、彼の独善的な、小さい、大らかでない心情を、情けなく思わずに居られないのである。
 斯様な、デリケートなことは、仮令《たとい》一日一晩、私が泣き明したとて、一時に、どうなるものでもない。
 此事を話した時にも、自分は胸に迫り、涙を流さずに居られなかった。
 どちらもいとしいのだから、どちらも仲よく、心を開いて打ちとけて欲しい。睦しい団欒がしたい。虫のよい願いかもしれないが、自分は、父母良人、弟妹と、皆、一つ心で笑い、働き、楽しみたいのである。
 大晦日の晩、自分等は予定通り、吉田さんの処へ行った。人数は差程集まらなかったが、何と云っても、鍋から、おこげを分けて貰って食べた友達である。紐育時代のこと、結婚した友人の誰彼のこと。話したりカードを遊んだりして居る最中に、遠くの方で、百八の鐘が鳴り始めた。近所に寺が少ないと見え、あまり処々には聴えない。静に一つ一つ、間を置いては突き鳴らす音が、微に、ストーブの燃える音、笑い声を縫って通って来るのである。
 皆、他の人は心付かないように見えた。けれども、自分は、手に賑やかな骨牌《カルタ》を持ち、顔は明るく笑
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