うと、彼女は、祝いの記念に、何か私の欲しいものを作って遣りたい。裾模様の着物がよかろうと思って相談に来た、と云われるのである。
 私は、彼女の好意に感謝した。然し、折角記念に拵えていただくのに着物では一向つまらない。
「それじゃあ、私の欲しいと思って居た勉強机を買って戴こうかしら。裾模様のお金を出せば一つ位余分な卓子まで出来るわ。私はその方がいいな」
と云った。
「そりゃあ、お前の欲しいものなら、どっちでもいいが。阿母さんも、裾模様がよかろうと云って居たから、……一遍相談したらよかろう」
「そうね」
「そうするもんだ。親の家へも行かないってことがあるんでねえ」
 祖母は、国言葉を出し、今にも手を引いて立ちそうな顔をした。
「今日行くの?」
「そうよ!」
 愛情から来る独断で、自分は寧ろ愛を覚えた。深く逆らう気も起らない。今行く方が総ていい、と云う直覚に動かされ、半ば祖母に打ち負けた形で、自分は林町へ、薔薇新の傍から行った。
 母は台処に、女中と、安積から来た柿のことを話して居られた。自分が今朝行くことを知って居られたのだろうか、知らなかったのだろうか。
 玄関の敷居を跨いだ時から心に湧
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