れて居た。
クリスマスの贈物も、大晦日まで繰のべられる。部屋部屋の大掃除、灯がついてから正月の花を持って来る花屋、しまって置いた屠蘇の道具を出す騒ぎ。其処へ六時頃、父上が、外気の寒さで赤らんだ顔を上機嫌にくずし乍ら、
「どうですね、仕度は出来ましたか」
と、何か紙包を持って帰宅されるだろう。
私や父は、いつも、家中の者に、何か一つずつ、気に入りそうな贈物を買い調えた。自分は早くから、父はその晩、皆の歓声をあげさせるような何物かを持って居るのだ。
御きまりの、然し愉快な晩餐。それがすむと、私が
「さあ、皆、眼をつぶって!」
と、大きな盆の上に、綺麗に飾った包物を盛りあげて、正面の大扉から現れる。その時の、罪のない亢奮!
光景《シーン》が、活々と目に現れた。その団欒の裡から、あの、真に物を遣れる者を持つ悦ばしさ、共に歓ぶ嬉しさを味う歳末の夜から、自分がのけられ、小さい唯三人限りの家で、ひっそりと笑いもせずに其晩を送るのかと思うと、何とも云えない心持がした。
林町へ行くことが出来なければ、兎に角何処へか行かずには居られない。到底、此家に、吉祥寺の一〇八の鐘を聞いて坐っては居られない
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