らしい位で居たらしい。然し、時が経つに連れ、祖母が私可愛ゆさから気付き始めた。
「何故、近頃は百合子もAさんも来ないのか。何かあったのか」
 しきりに気を揉み、私の家にも来、声をひそめ、眉をあげて、訳をきかれる。
 八十の老女に云ったとて、判ることでもなし、自分は只、微笑した。それでも満足されないと
「いつかゆっくり行きますから、安心していらっしゃい」
と云う。
 けれども、母が、自分の胸一杯にある感じに負け、会田さんに万事の輪廓を話してから、母と我々との不調和は、少くとも家内では公然なものとなった。
 子供のうちから私を知り、白浜の海岸や飯坂の温泉に長い旅行を一緒にしたことなどのある彼女は、私を、深く愛して居るように見える。母が、私の身の上を心配し、泣き乍らAの不満なこと、殆ど悪人に近いような観察を話されると、半信半疑になってしまうのだろう。
 スエ子を連れて来、
「如何うして、左様なんでしょうね、真個に、思うようではないもんですねえ」
と云って、小皺の多い口元を震わせ、慌てて涙を押える。
「おかあさまの仰云るのをきくと、Aさんは、まるで悪い方のようなんですものね。貴女が、そんな方と
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