とは、何でも書かずには居られないと云うが、親を苦しめ、夜もろくろく眠られないような思いをさせることを、何もわざわざ書くには及ぶまいと、私は思うのです。芸術の使命と云うものは、決して其那低い処にあるのではない」
彼女は、私の説明も、Aの弁解も聞かれなかった。
涙をこぼし、顔つきを変えて、云いつのる。そして、終に、
「斯うやって私達が会うからこそ、お互に不愉快なこともあれば、誤解することもある。それを一々百合子が書かずに居られないようでは、決して為にはならない。だから、斯うします。お互にもっと諒解し合えるまで、貴方にも百合子にも、決して御目にかかりません。私には、実際辛い。死んでしまうかもしれないけれども――その方が結局、百合子の幸福になれば仕方がありません。貴方も御安心でいいでしょう」
私には、全く意外のことであった。
会えば不愉快なことがあり、私が何か書くといけないと云って、絶交すると云うことが、親子の間にあり得ることだろうか。
彼女の涙のうち、掻口説かれる言葉のうちに、自分は、明に其に堪えない執着、もうあんなことは問題にして居ない愛の熱を感じた。
私は母の為に、其那感情の
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