本質的な無理をすることが恐ろしく思われた。
 幾度も会い、話し合ってこそ、物は理解されるのではないだろうか。それを、辛い、苦しい、死ぬかもしれないと云う思いで私を拒け、而も半分Aへの面当てのように絶交して、それで何のサルベーションがあるだろう。
 私は若い。斯程不自然な苦しいことも、何かの途で活かすことが出来る。然し、母は、後に、涙ばかりを遺し、結局、最大の問題である芸術に対する理解の欠乏に何の発展もなければ、万事は只、破壊ばかりになってしまうのではないだろうか。
 Aが何か云おうとしても
「もう何も云わないで下さい。今夜は、私の考えたこと丈をきいて頂くためにお呼びしたのだから、何を仰云ってもききません」
と斥けられる。
「おかあさま、それでいいの? 何だか余り……」
 自分は、到頭泣き出してしまった。彼女が、何とも云えず狂暴に、何とも云えず苦しさに混乱して居る様子が、自分には、云いようなく辛かった。和らぎたい心持は、溢れる程胸に満ちて居る。而も、私は仕事のことを思うと、もう親にも良人にも代えられない献身を覚え、その、わが命を守る為に、涙も、苦悩も、総て堪えて行かなければならず思うので
前へ 次へ
全39ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング