、与える感じは違いはない。
生き死ぬ個人の後に、記録や報告書が遺って行く。市街は、流れる行人の性格や感興というものによって、溌剌とするよりも、寧ろ大統領、国務卿、または陸軍卿という永代的貫目によって、落付けられ、威厳あらせられているように感じられるのである。
悪くいえば、紐育は吸血鬼だといえよう。然し、華盛頓は、また余りに手触りが乾き、古めかしくカサカサとしている。
これから見ると、ロスアンジェルスは、更に、自然から生れた一つの果実のような市だといえる。
明に、文化的発育の中途にある。けれども、人間が自然と入り混り、飽くまでも土に執して生活して行く有様は、善かれ悪かれ、独特な雰囲気を作っている。
自分の手で百姓をしていないものは、油田や鉱山やその他、種々の土地所有権によって生活している。山と海とにほどよく挾み護られ、四季の適宜な変遷、晴天と降雨との調和によって、地はまるで生産するために創造時代から篩《ふるい》にかけられたような場所に住んで、どうして豊饒な大地に縋らずにいられよう。
商売人も、医者や牧師も、皆、気質的に野天と、太陽とを操っているように思われる。哲学や、理想や、
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