v婦がいる。また、静かな軍人の家族も見える。
特に自分は、後者から深い印象を与えられた。
その陸軍軍人は、位官は何だか、相当の地位にある人らしい容貌と挙動とを具えている。若い婦人と生れて間もないらしい嬰児との三人づれで、ちょくちょく展望車に行く道すがら、我々の横を通り過ぎるのである。
始め、彼が逞しい軍服の腕に、大切そうに白い柔毛ずくめの嬰児を抱いて行くのを見たとき、自分は、彼等が父親、娘、孫という関係にあるのだと想像した。
パアジング将軍の模写のように颯爽《さっそう》たる彼の風姿は、見る目にも鮮やかだけれども、髪や髭は、大部分白くなっている。眼尻や口辺に漂う表情から見ても、五十より下には感じられない。
これに反して、婦人は、自分よりも若いほどに見え、どことなく臆病に余り趣味も豊かでない服装で広い軍服の背後に跟《つ》いて行くのである。
ふとしたことから、彼等が、あの瞳の碧い嬰児の両親だと知ると、私にとってその Trio は、更に感銘の深い一つの絵となった。
日に焦げた頬の色から推察すると、彼も、仏蘭西《フランス》の戦線から帰国して間のない軍人なのだろう。
そこで彼はあら
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