いた朝景色を、ワシントン州に這入って見た。
 午後の四時頃には、最後の止りであるシアトルに着くのだ。
 然し、自分達は、いい難い心の重みと、憂鬱とを感じた。着かないうちは、急ぎもしないのに心がせき、いざ着くとなると、思わず笑顔を収めるような緊張を感じる。
 ここぎりで、彼は東、自分は西と立別れる――あり得べきことなのだろうか。
 半年の間に、互の上に何が起るか分らない。今、彼を見、声を聴く、瞬間に、生涯の記憶がかかっているのではないか。
 海岸の港市は、小雨に濡れ、煙っていた。
 我々は、黙って腕をくみあい、金モールの仕着せの玄関番が威勢よく開いた旅舎《ホテル》の扉を、内に入った。



底本:「宮本百合子全集 第二巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年6月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第二巻」河出書房
   1953(昭和28)年1月発行
入力:柴田卓治
校正:松永正敏
2002年1月8日公開
2003年7月5日修正
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