いために、床を高く、土台石の間は吹き抜けにしてある。
空は、いかにも暖くあおく、明るい。
赤や茶や緑や、種々な樹木は、近く見ると濃厚な色絨毯のように、遠く眺めると、ぽかぽかした雑色に、耕野の涯《はて》を区切っている。
明に、色の交響楽を感じる。自然は、やや元始的に賑やかなのを感じる。
けれども、その中に、ぽつねんと立っている泥色の黒人は、見る者に、何という寂寥を感じさせるだろう。北緯三十五度辺の、南部に近い温帯の眠さ。
不思議な物懶《ものう》さと憂鬱とが、派手な、然し透明を欠く色彩に包まれて澱んでいる。永遠の晩秋。ひっそりとした風景。
耳の長いドンキーに、沢山綿を括りつけてのろのろと黒人が影を追って行くのを見る。
北部カロライナと、南方カロライナのちょうど境界線の上にあるブラックスブルグで、始めて、停車場に“Coloured”“White”と、別にした札を下げてあるのを見た。
私共は、ポーターが持って来てくれた嵌《は》め込み卓子を中にして、話したり、地図を拡げて見たり、骨牌《カード》、ドミノをいじったりして、単調な一日を送った。
四
眠っているうちに、アラバマは通り抜けてしまったのだろうか。
どこかの停車場を出ようとする激しい動揺で目を覚し、バースの裡に起き上って窓懸けを引くと、外は、目を驚ろかす南方の風景に換っている。
最初の乗換場であるニュー・オルレアンスには、多分十時頃着く予定である。
珍しい外景に、自分は知らず知らず興奮した。そして、急いで着物を着け、良人を誘って、食堂に行った。First Call が済んだばかりで、未だ内部はすいている。静に朝日をうける窓から、ここでならゆっくり外を眺められるのである。
窓枠に区切られて、連続した小画のように飛び去る自然の、先ず植物の異様なのが注意を牽く。
カロライナ辺では、黄葉する闊葉樹が多いらしく、一目見て、秋の田野、空気と空とを連想させた。
然し、今、眼に写る植物といえば、第一、皆黒ずんだ暗緑に鬱蒼としている。葉のこまかな、幹の古さびた名の知れない大木が、雲をつくような柳の、気味悪く暖いうねりに混って生えている。
海藻のような寄生木《やどりぎ》が、灰緑色にもさもさと親木を覆いつくして、枯れ枝が、苦しげにその間から腕を延して外に出ている。
自分は、気をつけてそれ等を
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