れてって!」
「連れてって!」
「あした連れてって!」
と湧き立った。倹約なおばあさんにしては全く珍しい。
「どこさいぐ?」
そう云われると子供らは急にどこへというような場所をかねがね知っているというわけでもないのであった。
「浄土松さでも行って見るか?」
「岩のある山でしょう? 詰らないわ」
私は、
「猪苗代湖へつれてってよ、ね」
と云った。
「それも涼しくっていいか知んねえなあ……」
私は弟たちも湖というものはまだ見たことないのを知っているのであった。
私共がお八つにゆでた玉蜀黍を食べている間に、おばあさんは黒い紗の袂を暑さに透かせ小さい蝙蝠傘の黒い影を赤土の上にくっきり落しながら、猪苗代湖行きの相談にどこへか出かけて行った。
程なく手にカンナの花の剪ったのをもって帰って来た。
「本当に、おばあさん、あした行くんでしょ?」
「そうよ、しか」
夜になって茶の間に風呂貰いの人々が集ると、おばあさんは炉辺でぐるりと皆に茶を注いで出しながら、
「あしたは孫どもをひとつ猪苗代湖さでもつれてって呉れべえと思ってなし」
などと、どこか改った言葉つきで云った。私共は傍に並んで坐って、そ
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