様につよく写った。母はショックをうけ、とりみだしていたようだった。お化けはないもの、迷信はばかげたもの、と占いやまじないの話に子供の興味がひきつけられないようにしている母だのに、この白い鳩が座敷へ迷いこんで来て、偶然、神棚へとまって二三度羽ばたきし出て行ったということを、一つのいい前兆としてうけとった。道男という弟は、この鳩が入って来たばかりに西村道男となった。そして、中学三年の秋、チブスで死ぬとき、母に僕は、ほんとにお母さまの子だったの? ときいて、母に悔恨の涙をしぼらせた。姓がかわっていたばかりでなく、この下の弟は、全く母に似て、ぼーっと肥った大柄だった。わたしや上の弟が父ゆずりで小柄だったのにひきかえて――こういうことは、みんなずっとあとにおこったことがらだった。そのころはまだ田端の汽車や、牧田の牛や子供の生活をみたす豊富な単純さで、昼と夜とがすぎた。
道灌山へいっていい? と母にきいて、さておきまりの一隊が出発するようになった時分、わたしは、きっと母からだったのだろう。太田道灌の話をきいた。みの一つだになきぞ悲しきと云って、娘が笠の上に花の咲いた山吹の枝をのせて、鹿皮のむか
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