る父に相談するにも遠すぎるいろいろの心持から祖父の墓詣りをしばしばする心もちになっていたのだったろう。
紛糾しつづけている西村の家へ下の弟を養子にやることを母は躊躇しきっていたのに、到頭それを承知してしまった。あとからこのことは家庭内の悲劇となったのだが、母が道ちゃんとよんだその弟を西村という姓にすることを承知したきっかけは、鳩だった。
祖母と母とが、その日も南向きの茶の間でしきりに話していた。話すというより、むしろ、すこし喧嘩っぽく論判していた。わたしたちは大人のそういう雰囲気に影響されて、ふだんよりおとなしく庭で遊んでいた。すると、急にどっかからつよい羽音がきこえたと思うと、茶の間にいる母の、
「あらっ! 鳩! 鳩!」
という叫び声がきこえ、同時にすーっと軒さきをくぐるようにして、ほんとに白い鳩が家のなかからとび出して来た。
「鳩が入って来たのよ――鳩だったろう?」
いそいで、縁側に立って来た母が、息をはずまして、鳥のとび去ったこぶしの梢の方をみた。
あっけにとられた子供たちの目には、いきなり座敷へとびこんだ鳩よりも、縁側にかけ出して来て外を見た母のひどく動かされた表情が異
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