ような、いやなような気持がした。下島のおじさんは、時々夜なかに酔っぱらってかえって来て、中の口の戸をドンドン叩いて母にあけさせることがあった。そうでないときは、いつも玄関わきの「おじさんの部屋」で新聞ばかりよんでいるか、台所に来ているかした。子供たちと一緒に御飯をたべなかった。台所の三畳たたみの入っているところで、つかわれている人たちと食べた。母が拒んだらしかった。下島のおじさんと遊ぶことも禁じられていた。
たしかに、下島のおじさんは妙なことを教えた。わけのわからない匂いのことを云ったり、指の変な形をしてわたしたちに見せて、知っているかときいた。子供たちは、匂いのことも、指の形も知らなかった。おじさんは説明しない。自然、子供たちは、お母さま、ああちゃん、とそれぞれのよびかたで母に向って、おじさんからきかれたことをそのままくりかえして、なあに、ときいた。そのたびに、母は顔色をかえるぐらい怒った。子供のきくことに答えるよりさきに、下島のおじさんをよんで、面と向って、はげしく罵るぐらいに怒った。母の怒りがあまりつよいから、母とおじとをとりまいて息をこらして見物している子供の心には母の怒のは
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