げしさに焼かれ清潔にされたように、おじさんの云った変なことより、母の迸る憤りがやきつけられるのだった。

 富樫という書生もいた。書生といっても髭をはやしていて、おかみさんもうちにいた。おかみさんの方が、富樫よりも体が大きかった。富樫さんはノミの夫婦と云われていた。そばかすが頬にあるのを、わたしは珍しく思った。そして、はつ[#「はつ」に傍点]、これなんなの? と云って頬っぺたの雀斑をさわった。そしたら、はつ[#「はつ」に傍点]は、乱暴にくびをふってわたしの指をはらいのけ、どうせ、はつ[#「はつ」に傍点]はお母さまのようにきれいじゃありませんよ! と、わたしを自分のそばからつきのけた。そう云いながらぐんとつきのけた。その感じからはつがきらいになったほど、荒っぽくつきのけた。
 このはつ[#「はつ」に傍点]は、ある朝いきなり北海道からうちへ来た。そして、富樫とひどい喧嘩をした。紫の紋羽二重の羽織に丸髷で、母のところへ挨拶につれて来られても、母に何か云ってくってかかった。このときも、母は非常におこった。お前にこそ、富樫でも大事な御亭主だろうが、このひろい世間で、あんな男一匹が、という風に、母
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