ろからタイルではった床の上まで、オガ屑がまかれていた。濡れたオガ屑の匂い、漬もの桶の匂い、どっさり棚につまれた燻製《くんせい》から立つ匂い。それらがみんな交りあって、店の中には渋すっぱくて、懐しいような匂いがこめている。――伸子がやがて外套に冬の匂いをつけ、頬の色も眼のつやも活々とした様子で、ホテルへかえって来るのだった。
 素子は、大抵、伸子が出がけに見たとおりデスクの前にいた。入ってゆく伸子をみて、素子は椅子の上でふりむき、
「どうだった?」
ときいた。これは、そとは一般にどうだった、という意味だった。その素子の声には、たっぷり三時間一人でいたあげくの変化をよろこぶ調子がある。伸子は喋《しゃべ》り出す。素子も新しいタバコに火をつけた。
「でもね、こういうこまごました面白さって、生活の虹だもの――話したときはもう半分消えてしまっているわ」
 伸子は、遺憾そうに云った。
「ほんとに一緒に出られるといいのに。――」
 デスクの上にひろげられている本から、わきにおいてある腕時計へちらりと目をやりながら、素子は、
「なにしろ、毎日の新聞をよむのがひと仕事なうちは、仕様がないさ」
 あきらめた
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