。
約束の第一日、伸子は貰った所書と地図をたよりにこの建物をさがし当てて来た。マリア・グレゴーリエヴナの小皺の多い丸顔には、善良さと熱心さとがあらわれていて、伸子は気が楽になった。早速「黄金の水」がはじまった。短い課業が終って、二人が不自由な英語で雑談していると、入口でベルがなった。
「あら、おかえりなさい! もう?」
出て行ったマリア・グレゴーリエヴナのおどろいたような声がした。対手は男らしいが声は聞えない。伸子がこんどマリア・グレゴーリエヴナが現れたら帰ろうとしていると、
「佐々さん、こんにちは」
ききちがえようのない最低音で云いながら、ノヴァミルスキーが入って来た。つづいてそこへ現れたマリア・グレゴーリエヴナを、
「わたくしの妻です」
と改めて紹介した。
「課業はいかがです?」
ここがノヴァミルスキーの家だとは思いがけなかった。伸子は急にいうことが見つからなくて、
「ありがとう」
と答えた。
「たしかにいい先生を御紹介下さいましたけれども、わたしはいい生徒とは云えないかもしれません」
「そんなことはありません。わたしの経験でわかりますよ」
ノヴァミルスキーもそうだが、妻
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