んとのロシアの厳冬《マローズ》がはじまります」
 秋山も、はじめてみるモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の冬らしい景色に心を動かされているらしかったが、
「じゃ、瀬川君に知らせましょうか」
と、内海をかえりみた。
「朝飯前だったんですか」
「ええ。あなたがたが起きられたら一緒にしようと思って」
「まあ、わるかったこと」
 きまりのわるい顔で伸子があやまった。
「わたしたち、寝坊してしまって……」
「いや、いいんです。私どもだって、さっき起きたばっかりなんですから……しかしソヴェトの人たちには、とてもかないませんね、実に精力的ですからね。夜あけ頃まで談論風発で、笑ったり踊ったりしているかと思うと、きちんと九時に出勤しているんだから……」
 そこへ、黒背広に縞ズボンのきちんとした服装で瀬川雅夫が入って来た。日本のロシア語の代表的な専門家として瀬川雅夫も国賓だった。演劇専門の佐内満は十日ばかり前にモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]からベルリンへ立ったというところだった。
「お早うございます。――いかがです? よくおやすみでしたか」
 秋山宇一は無産派の芸術家らしく、半白の
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