の雨外套を着ていたからだった。それは、日本で若い女たちが着ているものだったが、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]でそんなレイン・コートを見たのは、初めてだった。コバルト色のレイン・コートとともに、特徴のあるその瞳の表情も、伸子の印象にのこされた。
伸子は、思い出して、テルノフスカヤにその話をした。
「そうですか? わたしは思い出せませんよ」
それきりで、テルノフスカヤはコバルト色のレイン・コートを自分がもっているともいないとも云わなかった。二人の娘たちは、自分たちに話しかけようともしないテルノフスカヤの出現に、やっと思いあきらめて腰をあげた。すると、テルノフスカヤが、
「あなたがた、吉之助さんの部屋へよって帰るんでしょう」
見とおした命令的な口調で云った。
「荷作りがすんだら、こちらへ来るように云って下さい」
思ったより早く吉之助が、どことなし腑におちない表情で伸子たちの室へ入って来た。テルノフスカヤを見ると、顔みしりではあると見えて、
「こんばんは」
身についている客あしらいのよさで挨拶した。テルノフスカヤはだまって握手して、
「いそがしいですか」
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