Bだって、ツァイスのレンズって云えば、世界一でしょう? それは科学性でしょう? それなのに、『サラマンドル』であんなセンチメンタルな波なんかおくめんなく出してさ。――ドイツの文化って、一方でひどく科学的で理づめみたいなのに、ひどく官能的だし、暗いし――わからないわ」
「――ツァイスのレンズだけあってもいい映画にならないところに、われわれの生き甲斐があるわけでしょう」
 歌舞伎がモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ来たにつれて、一座の俳優の或るひとたちや中館公一郎のような映画監督がそれぞれに芸術の上に新しい意欲を燃やし、どこかへ展開しようとして身じろいでいる。その雰囲気は、はじめ歌舞伎がモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ来て公演するときいたころの伸子たちには、予想もされなかった若々しく激しいものだった。
 ソヴェトの見物人たちは、歌舞伎の舞台衣裳の華やかで立派なことを無邪気に驚歎し、ごくわずかの体の動きで表現される俳優の表情や科白《せりふ》の節まわしに歌舞伎の独特性を認め、好意にみちていた。それにこたえて、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]一週間の公演を熱
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