カゃありませんか」
素子の話に答えずしばらく黙っていた吉之助は、
「歌舞伎も何とかならなくちゃならない時代になってます。ともかく生きてる人間がきょうの飯をくってやっていることなんですから」
やがて時間がなくなって、長原吉之助はさきに席を立った。
柄の大きい、がっしりした吉之助の背広姿がドアのそとへ消えると、素子は感慨ぶかそうに、
「歌舞伎生えぬきの人がああいう心もちになってるんだものなア」
と云った。
「案外、云わせてみりゃ、ああいうところじゃないんですか」
歌舞伎の伝統的な世界の消息にも通じている中館は、若い俳優たちの動きはじめている心に同感をもっている口調だった。
「なんせ、あの世界はあんまりかたまりすぎちまっていてね。いいかげんあきらめのいいやつでも、こっちへ来て万事のやりかたを見りゃ、目がさめますよ、おいらも人間だったんだってね、同じ役者であってみれば、こういうこともあってよかったんだぐらい、誰だって思ってるでしょう」
レーニングラードのドラマ劇場の楽屋で、鏡に向って顔を作っている左団次のうしろに不機嫌なあおい顔をして、ソファにかけていた左団次の細君の様子を、伸子は思
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